プライベートを大切にしたい、やりたい仕事が派遣で募集されていたなど、様々な理由で派遣社員として働く方がいます。
同じ職場で働き、周りと同様の業務を行っていたとしても、正社員やパートなどと派遣社員は、適用される法律の枠組みが異なります。
こちらでは、派遣で働く場合に知っておきたい法律のうち、労働者派遣法と労働契約法を深掘りしていきます。
「労働者派遣法」とは?
派遣で働く人に深いかかわりがある労働者派遣法ですが、この法律を説明する前に、まずは労働基準法について考えてみたいと思います。
労働基準法は、会社などに雇われて働く場合に適用される法律で、就業時間や休日、賃金など、雇用契約を取り交わすうえで必要な内容が含まれています。
労働基準法は、弱い立場に置かれがちな労働者が不利な条件で働かされることを防ぐために設けられています。
働く上で必要なルールを定めることで、雇用者を守る働きをするのが、労働基準法といえるでしょう。
労働基準法の一部
労働基準法の中には特別法というものがあり、その一つが労働者派遣法です。
労働基準法は、会社など雇用主と労働者の関係に関する一般的な法律が収められていますが、労働者派遣法は、直接雇用ではなく派遣社員として働くときのルールが記載されています。
労働者派遣法は、あくまでも労働基準法の中に含まれている法律です。
労働者派遣法に記載されていないケースについては、労働基準法で確認することになります。
「労働者派遣法」で決められていることとは?
労働者派遣法についてなんとなく知っているという方はいるかもしれません。
ですが近年、労働者派遣法は何度となく改正されています。
こちらでは、比較的新しく改正されたもので、かつ派遣労働者にかかわりが深い部分にフォーカスして、労働者派遣法で定められている内容を取り上げてみたいと思います。
派遣期間の上限は3年
2015年の改正では、労働者派遣法40条の2第1項、第2項により、労働者保護の目的のため、派遣期間の上限が3年に統一されました。
これは、派遣労働者1人につき、同じ組織内で派遣業務ができる期間が、1回あたりの契約年月に限らず、トータルで3年になったということです。
ただし、これには例外事項があり、派遣先の労働組合やその代表者から意見を聴取して合意が得られれば、さらに3年間、派遣労働者を受け入れることができます。
また、3年間派遣労働者として働いた方に対し、クーリング期間である3か月と1日以上の空白期間を設ければ、再度派遣労働者として受け入れることが可能です。
雇用安定措置
労働者保護の条項はほかにもあります。
労働者派遣法30条第2項では、派遣労働者の雇用安定措置の義務が定められています。
派遣労働者が希望した場合は、派遣期間が終了した後に、人材派遣会社が派遣先企業に対して直接雇用を依頼したり、新規派遣先を紹介したり、人材派遣会社で無期雇用とするなど、雇用の維持に努めなければなりません。
ただし、同じ組織での派遣期間が1年以上3年未満の見込みの派遣労働者に関しては努力義務となっていて、すべての派遣労働者に対して義務化されたものでないことに注意が必要です。
雇い入れ時の説明義務
2021年の法改正では、派遣労働者の雇い入れ時の説明義務も強化されました。
人材派遣会社は、派遣社員と労働契約を結ぶ際に、自社が行っている教育訓練制度やキャリアコンサルティングの内容を説明する義務が発生しています。
教育訓練やキャリアコンサルティングは、以前の法改正の際に整備されましたが、派遣社員の認知度が低いなど、受講実態は低水準でした。
ですが、実際にそれらのサービスを受けた人の満足度が高かったことに加え、雇用の安定やキャリア形成に役立つ内容のため、説明が義務化されるに至りました。
雇用先が法律違反を犯した場合は?
雇用先が法律を違反する例として、
- 派遣が禁止されている業務に従事させた
- 厚労省からの派遣業務許可を得ていない会社から派遣労働者を受け入れた
- 3年を超えて労働者派遣を受け入れた
などが挙げられます。
さらに、実態としては請負なのにも関わらず、派遣として働かせるといったケースもあるようです。
このような法律違反に対しては、労働者保護の視点に立った罰則が設けられています。
それが「労働契約申し込みみなし制度」で、派遣先の会社が労働者派遣に反するような行いをした場合、派遣先会社が派遣社員に直接雇用の申し込みをしたものとみなします。
そして、派遣社員がその申し込みを承諾した場合は、直接雇用に移行できるというもので、労働者が不利にならないように取り決めがなされています。
「労働契約法」とは?
労働契約法は労働契約に関する法律で、正社員に加え、契約社員や派遣社員など、いろいろな雇用形態が生まれたことが背景にあり、2007年に誕生しました。
労働契約法は、労働者と雇用主である使用者双方が合意して労働契約を締結・変更することで、良好な労使関係を目指す目的で作られています。
こちらの法律の第1条から第5条では、労使が対等な立場で契約を結び、雇用関係で優位性があるとされる使用者が、労働者に対して配慮すべきことが記載されています。
そのあとの第6条から第20条では、労働契約の締結や変更に関する具体的なルールが書かれています。
これらの条項にのっとった対応をしていないと、労働契約違反になることも考えられます。
労働契約法は必要に応じて改正されています。
労働者が労働契約法の趣旨や内容を熟知しておくと、自分自身を守ることにつながるはずです。
「労働契約法」で決められていることとは?
雇止め法理
労働契約法に記載されている内容で、特に派遣社員にかかわりがあるものの一つが「雇止め法理」です。
雇い止めは、契約期間の終了に伴って雇用をとめるもので、契約を途中で打ち切るわけでもなく、不当な解雇には当たりませんが、有期労働者が著しく不利益を被ることがあります。
雇い止め法理は、合理的な理由がない雇止めは無効であるというルールです。
裁判所の判例で認められた雇止め法理のルールを、条文化しているのが労働契約法です。
同一労働同一賃金
不合理な労働条件を禁止している条項も、労働契約法に記載されています。
いわゆる「同一労働同一賃金」にあたるもので、有期契約の労働者と無期契約の労働者の雇用条件は、正当な理由がない限り、同一のものでなければなりません。
これは、労働時間や休日などに限らず、教育訓練や通勤手当、食堂利用などにも当てはまります。
5年ルールって?無期雇用契約への転換を希望できる?
改正された労働契約法の一つが、無期労働契約への転換に関するもので、5年ルールといわれます。
2013年4月以降に締結された有期労働契約では、契約期間が通算5年を超えた場合、派遣労働者が希望すれば、期間の定めがない労働契約に転換することが可能になりました。
このようなケースでは、派遣労働者は申し込みをするだけで無期雇用契約へ転換でき、雇用主は依頼を断ることはできないとされます。
派遣労働者にとっては、雇用期間の心配をせず、それに伴って経済面での不安を持たずに働ける有用なルールです。
しかし雇用主側からすると、業績が悪化した場合にも雇用を維持しなければならないなど、マイナスにとらえるケースも考えられます。
無期雇用を否定的に考える雇用者は、雇用期間が継続して5年になる前に、雇い止めの実施する可能性があります。
まとめ
派遣社員は、労働基準法の特別法とされる労働者派遣法のポイントを知っていると、ストレスなく働くのに役立つかもしれません。
さらに、有期契約で働く派遣社員を支えるものとなる労働契約法の趣旨を理解しておくと、安定した雇用を得る助けになる可能性があります。
法律を通して、派遣社員の働き方を考える機会としたいものですね。