「リカレント教育」を知っていますか?最近注目されている「社会人の学び直し」を意味する言葉です。
現在国をあげて推奨されていることもあり、大学などでの受講者数は約50万人、公開講座などの受講者数は約134万人(2016年)と、多くの人がリカレント教育を受けています。
この記事では、リカレント教育をはじめる前に知っておきたい情報や、学べる具体的な内容をまとめて紹介します。
ぜひ参考にしてください。
リカレント教育とは「社会人の学び直し」
リカレント教育とは、社会人として働いていた人が再び教育を受け、知識やスキルを習得することを意味します。高校や大学などを卒業し、一旦社会に出た人が再び教育を受けることから、「学び直し」ともいわれます。
社会人になってからの学びを表現する言葉として「生涯学習」や「リスキリング」を思い浮かべる人もいるでしょう。
ここからは、リカレント教育と生涯学習、リスキリングの違いを説明します。
リカレント教育と生涯学習との違い
高校や大学などの教育機関から離れた後に再び学ぶという意味では「リカレント教育」と「生涯学習」は似ています。ですが、これらは学ぶ目的や内容が大きく異なっています。
学ぶ目的 | 学ぶ内容 | |
---|---|---|
リカレント教育 | 仕事に活かすため | 仕事に活かせる専門知識やスキル |
生涯学習 | 人生を豊かにするため | 教育・スポーツ・趣味・ ボランティア活動などあらゆる学び |
リカレント教育とリスキリングとの違い
経済産業省によると、リスキリングは以下のように定義づけられています。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
引用元:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―
リカレント教育とリスキリングも、社会人が新しい知識やスキルを習得する点では同じような意味であることがわかります。しかし、リカレント教育とリスキリングには以下のような違いがあります。
学びの前提 | 学びの主体 | |
---|---|---|
リカレント教育 | 離職を前提としていることが多い | 個人による主体的な学びをさすことが多い |
リスキリング | 企業に属しながら学ぶことが多い | 企業主体で進められることが多い |
リカレント教育が注目される背景
リカレント教育は現在、国をあげて推奨されている取り組みです。注目される背景についてそれぞれみていきましょう。
急速な技術革新による社会の変化
近年、技術の急速な進歩にともない、社会がめまぐるしく変化しています。そのような状況下で需要が高まっているのが、デジタル技術をもつ人材です。今後企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)がさらに進むと予想されるため、デジタル技術をもつ人材の需要はますます高まるでしょう。
時代のニーズに合う知識やスキルを習得し、社会の変化に対応していくために、リカレント教育が重要な役割を果たすのです。
終身雇用の崩壊
ひと昔前まで、終身雇用が当たり前の時代でした。終身雇用とは、新卒で入社したら定年まで勤め続けるという雇用スタイルです。
しかし近年、終身雇用が崩壊しつつあります。終身雇用が崩壊しつつあることは、入社後そのまま同一企業に勤め続ける人の割合が減少しつつあることや、転職者数が2019年に過去最多を記録したことからも明らかです。
今後は自分のキャリアを自分で考え、それにあわせて知識やスキルを身につける必要がでてきます。企業に依存せず、自らが主体的にキャリアを作っていくことが求められるため、リカレント教育の必要性も高まると考えられます。
人生100年時代
「日本で2007年に生まれた子どもの半数が、107歳以上まで生きる」といった研究結果があることを知っていますか。「人生100年時代」がいよいよそこまできている今、定年まで勤めたら退職し、老後の生活を送るという、今まで当たり前だった人生設計を見直す必要がでてきました。
近年は働き方改革や情報技術の発展なども影響し、さまざまなライフステージの人が自分に合う働き方で仕事をすることが増えています。子育てをしながら自宅で仕事をする、定年後に新たな仕事にチャレンジするなど、それぞれの立場で活躍できる働き方が模索されているのです。
働き方は今後ますます多様化すると考えられます。人生100年時代を迎えるにあたり、自分のキャリアを積極的に考える必要があり、リカレント教育はそのきっかけにもなっています。
リカレント教育でもたらされる労働者のメリット
リカレント教育は、社会にも個人にもさまざまなメリットがあります。ここでは、働く人のメリットとして3つを紹介します。
それぞれみていきましょう。
キャリアアップをめざせる
リカレント教育を受け、すでに有している知識を社会のニーズに合うようアップデートしたり、社会で求められているスキルを新たに習得したりすることで、キャリアアップをめざせます。今の仕事に活かせるだけでなく、キャリアチェンジにも役に立つでしょう。
収入アップをめざせる
リカレント教育を受け、専門性を身につけたり仕事の幅を広げたりすることで、収入がアップする可能性が高まります。平成30年度の「年次経済財政報告」によると、自己啓発を実施した人と実施しなかった人には、以下のような年収の差がみられたそうです。
1年後:有意な差はみられない
2年後:約10万円
3年後:約16万円
長い目でみると、両者の年収の差はさらに広がると予想されます。このことからも、リカレント教育を受けることによって収入アップをめざせることが理解できるでしょう。
長く活躍できる人材をめざせる
リカレント教育を受けた人は、社会で長く活躍できる人材になり得ます。変化し続ける社会に対応していくために主体的に学べる人は、長期にわたって社会で求められるでしょう。新しい技術だけでなく、今までの変遷も理解している人材は多くないため、企業にとっても貴重な人材となりそうです。
リカレント教育の対象となるのはどんな人?
リカレント教育の対象者は社会人です。学歴や年齢には関係なく、社会人として働いている人、もしくは社会で働いた経験がある人が対象となります。
最近は、出産や育児、介護などのために離職した人や、定年退職した人がリカレント教育を希望するケースも多いようです。
リカレント教育で学べる内容の具体例
リカレント教育で何を学ぶのかは、目的によって異なります。ここでは、リカレント教育の一例として4つを紹介します。
なお、ここで紹介している講座の内容は2023年2月時点のものです。最新の情報は、各教育機関のHPなどをご確認ください。
ビジネス系
ビジネス系とは、経営や経済、法律などをさします。ビジネス系のリカレント教育を受ける人の中には、弁護士や公認会計士のような国家資格や、MBA(経営学修士)の取得をめざす人もいます。
「東北大学会計大学院 経済学研究科」は、会計に関するエキスパートを育成する専門職学位課程です。会計専門職をめざす「公認会計士コース」と、会計や経営領域の高度な分析スキルの習得をめざす「会計リサーチコース」があります。国際的な人材の育成を目的に英語を重視した科目も豊富です。
「福岡女子大学 女性トップリーダー育成研修」では、全2回の研修で、女性リーダーとして活躍できる人材を育成しています。修了生からは、「知識だけでなく人脈も得られた」「広い視野をもつことの大切さを学んだ」といった声もあるようです。
そのほか、ビジネス系では以下のような内容の公開講座も開催されています。
・マーケティング
・起業
・コーチング
・プレゼンテーション
・営業スキル
専門性を高めて仕事に活かしたい、自分の新たな可能性を見つけたいと考えている人が多く受講しているようです。
IT系
DXが進む現在、IT系の知識やスキルは多くの場面で必要とされています。そのような背景もあり、多くの教育機関でIT系のプログラムが用意されています。
「愛知県立大学大学院 情報科学研究科」は、先進的な専門知識やスキルを有する「高度情報システム技術者」の育成をめざす博士前期課程です。通信システム構成や生体センシング、視覚情報論など高度な専門知識を学びます。
「青山学院大学 ADPISA-E(青山・情報システムアーキテクト育成プログラム初級)」は、 IT未経験者が、基礎的かつ実践的な情報システムの知識を習得することを目的とするプログラムです。プログラミングや情報システム、ITに関する基礎科目などを学び、DX時代に活躍できる人材をめざします。
そのほかIT系では、以下のような教育と関連づけた内容の公開講座も開催されています。
・教育データ利活用基盤システムを用いた教育DX
・学習行動分析に基づく教材のデザイン
・変革する教育方法・技術
・ICTを活用したWebカウンセリング
・オンライン授業の授業設計
今の仕事に活かせるIT知識を習得したい人や転職をめざす人、起業したい人など、さまざまなキャリアプランをもつ人が受講しているようです。
外国語
ビジネスの現場において、外国語が求められるケースは多くあります。中には昇進や昇格の条件として、外国語力を求める企業もあるようです。外国語力は仕事の分野にかかわらず幅広く使えるスキルなので、キャリアアップやキャリアチェンジの際大いに役立つでしょう。
「神戸市外国語大学 英語教育学専攻-4学期・週末利用型リカレント教育大学院-」は、教育経験のある教員が英語教師としてスキルアップするためのプログラムです。時代に合う英語教育の知識や、実践的なスキルを身につけます。
「慶應義塾大学外国語教育研究センター ビジネス英語中上級」は、ビジネスの現場でのコミュニケーションに役立つ英語力を習得するための講座です。英語を話す力と理解力を高めるため、講座内では積極的にコミュニケーションをはかります。実践的なコミュニケーションを繰り返すことで、ビジネス英語に自信をもてるようになるでしょう。
外国語のプログラムとひと言でいっても、その内容はさまざまです。外国語を活用するシーンをイメージしてからプログラムを選ぶことをおすすめします。
介護・福祉
今後ますます高齢化が進むこと、子どもへの支援の必要性が高まっていることなどから、介護・福祉分野においてもリカレント教育に注目が集まっています。
「同朋大学 『共に学ぶ』『共に育つ』新しい介護福祉DX人材育成のためのリカレント教育推進事業」は、介護・福祉分野におけるIT技術の活用法を学べる講座です。具体的には、「情報基礎×介護福祉」「AI基礎×介護福祉」「IoT基礎×介護福祉」などを学びます。介護・福祉分野で活躍できるDX人材をめざし、現場で活かせる実践的な知識を身につけます。
「日本福祉大学中央福祉専門学校」で提供しているのは、介護系の資格取得をめざしたプログラム。知識やスキル、コミュニケーション能力など、総合的に優れた介護・福祉のプロフェッショナルを育成します。介護・福祉系に転職したい、資格を取得したいと考えている人は、こちらのように資格取得をめざせるプログラムを選ぶと良いでしょう。
リカレント教育をはじめるにはどうしたら良いか?
「リカレント教育をはじめたい!」と思ったら、どのように行動したら良いのでしょうか。
ここからは、リカレント教育をはじめるステップをお伝えします。
【ステップ1】自分のキャリアプランを考える
「リカレント教育に興味はあるけれど、どのような内容を学べば良いかわからない」といった悩みはよく聞かれます。リカレント教育のプログラムはたくさんありますので、ただ漠然と探しているのでは迷ってしまうでしょう。
そこで、まず自分とじっくり向き合い、自身のキャリアプランについて考えてみることをおすすめします。今後どのような仕事をしたいのか、どのように社会に貢献したいのかといったことを考え、思いつくことからどんどん書き出してみましょう。
どのようなキャリアを築いていきたいのか、おおよその方向性を決めたら、それに必要な知識やスキルは何かを検討します。起業したいならビジネス系、海外で仕事をしたいなら語学系など、最初は大きな範囲で学ぶ内容を考え、徐々に範囲を狭めて具体化していきます。そうすることで、自分に必要な学びがみえてくるでしょう。
【ステップ2】希望のスキルを習得できるプログラムを調べる
学びたい内容が決まったら、希望の内容を学べるプログラムを探します。全国各地の教育機関で、リカレント教育のプログラムが開催されています。
「リカレント教育 (自分が学びたい内容)」で検索したり、「マナパス」という学び直しに関する情報サイトにアクセスしたりすると、リカレント教育のプログラムを見つけることが可能です。マナパスについては後ほど詳しく紹介します。
オンラインで開催されるものや週末・夜間に開催されるもの、期間を限定して開催される集中講座など、社会人が学びやすいプログラムも多数あります。
働きながら学びたい人は、講座の開催時間や開催方法などが自分に合うかどうかもチェックしておきましょう。
リカレント教育における注意点
リカレント教育を受けるにあたって注意点があります。ここでは2点を取り上げます。
ひとつずつみていきましょう。
受けられる教育機関やカリキュラムが限られている
リカレント教育の講座を開講する教育機関は、全国各地に多数あります。しかし、すべての教育機関で開講されているわけではないため、お住まいの地域によっては、通える範囲にリカレント教育を実施している機関などがない場合もあります。
また、必ずしも自分が学びたい内容のプログラムがあるとも限りません。ニーズが高い分野は多く開講されていますが、学びたい分野がニッチであれば、プログラムを探すことが難しい場合もあるでしょう。
企業の支援体制が不十分な場合がある
企業に勤めながらリカレント教育を受けたい場合は、勤務先の協力が欠かせません。しかし現状では、リカレント教育に対する支援体制が不十分なケースもみられます。
質の良い学習を進めるには、休日出勤や残業を減らし、十分な学習時間を確保することが必要です。
もし企業のスタンスが明確でない場合は、相談してみるのもひとつの方法でしょう。
リカレント教育における支援制度
リカレント教育は、国をあげて推奨しているということもあり、支援制度も充実しています。たとえば、奨学金や教育訓練給付金といった学費面の支援や、今後のキャリアを相談できるキャリアコンサルティングなどです。
リカレント教育を受けたい人が利用できる学費面の支援制度については、こちらの記事でくわしく解説しています。ぜひご覧ください。
リカレント教育で何を学ぶべきか迷ったら
先ほど紹介したように、自分のキャリアについて考えることが、リカレント教育をはじめるファーストステップです。しかし中には、「考えてみたけれど自分のキャリアプランを思いつかない……」「何かしなければと思うけれどどうしたらよいのだろう……」と不安に感じている人もいるかもしれません。
そのような場合は、文部科学省が運営している「マナパス」をチェックしてみてください。マナパスは、社会人の学び直しを応援するポータルサイト。学びに関する情報がまとめられているので、自分に合う講座を見つけるのに役立ちます。
検索機能も優れており、学ぶ場所や学費、資格、分野などから自分に合う講座を見つけられます。在学生・修了生のインタビューを読んで、自分のキャリアをイメージしてみるのも良いでしょう。
【まとめ】リカレント教育で成長しよう
日本人は社会人になると学ばなくなるといわれています。しかし、これからの時代に活躍できるのは、知識やスキルを常にアップデートできる人材、主体的に学び続けられる人材です。
社会人になったからといって学びをやめるのではなく、専門性を磨いたり、仕事の幅を広げたり、新たな分野に挑戦したりして、学び続けることが大切です。
リカレント教育を実践することで、より自分らしく今後のキャリアを築いていくことができます。これからも学び続け、自分自身の成長につなげてください。