大人になったからといって、自動的に字がうまくなるわけではありません。
書類や郵便物の宛て名を書いたり、冠婚葬祭で記帳したりと、手書きの文字を他人に見られる機会は多いものです。
自分の字に自信がないと、このようなシーンが訪れるたびに、いたたまれない思いをするかもしれません。
そのような場合でも、書写技能検定の取得を目指し練習を重ねれば、字を速く・美しく・正確に書けるようになります。
書写技能検定とは?
書写技能検定とは、日本書写技能検定協会が運営している、硬筆・毛筆の技術と知識を測る検定試験です。
「硬筆書写技能検定」と「毛筆書写技能検定」の2種類で構成されています。
1990年の改称以前は、それぞれ「ペン字検定」「書道検定」と呼ばれていました。
書写技能検定は、書写に関して文部科学省の後援を受けている唯一の検定で、学歴や年齢に関係なく、誰でも受験することができます。
原則として1年に3回実施され、全国の都道府県で受験が可能です。
受検するメリットは?
字が綺麗になる
書写技能検定を受けるメリットのひとつは、受験対策の過程で字を綺麗に書けるようになることです。
試験の本番では、漢字の「楷書」および「行書」を書く問題などが出されます。
楷書とは一画一画を崩さずはっきりと書く手法、行書とはいくつかの画を続けて書く手法です。
試験では、楷書と行書を明確に書き分ける必要があるので、字を構成するひとつひとつの線に注意を払い、丁寧に書かなければなりません。
書写技能検定への合格に向けて練習を続けているうちに、綺麗な字を書けるようになるわけです。
また、書写技能検定を履歴書の資格欄に書けば、ビジネスシーンにふさわしい字が書けることをアピールできます。
入試で優遇される
書写技能検定の級を持っていると、大学・短期大学・高等学校・専修学校・各種学校の入学試験で有利になる場合があります。
推薦入試やAO入試、一般入試で、書写技能検定を持つ受験者に点数を加算する学校があるため、入学試験に合格できる可能性が高まるのです。
大人になってから学校で学び直しをしたいときに利用するだけでなく、高校入試を見据えて子どもが小さいうちから書写を習わせることも考えられます。
家族や人に教えられる
書写技能検定では、字を綺麗かつ正確に書く実技試験に加え、歴史や書き方に関する知識問題もあります。
そのため、試験対策をする過程で字が綺麗に書けるようになるだけでなく、文字に関する知識を身につけることも可能です。
技術と知識に習熟すれば、字の書き方などを家族に自信をもって教えられるようになります。
さらに、1級に合格した希望者には「指導者証」が交付されるので、指導者としての能力を客観的に示すことができ、ペン字教室や書道教室を開く際に役立つでしょう。
書写技能検定1級に合格することで、ペン字・書道の指導者として独立する道が開け、自宅で開業することも可能なため、働き方の選択肢が広がることもメリットです。
試験の内容は?
硬筆書写技能検定
硬筆書写技能検定の問題は「実技」と「理論」の2種類で構成されます。
時間は級によって異なり、社会人が対象として想定されている準2級~1級では90分です。
実技試験の代表的な問題に「速書き」というものがあります。
所定の文を、ボールペンを使い短い時間で書き写す課題で、字を速く正確に書くのはもちろん、字の大きさや字間を一定にそろえることも必要です。
また、ハガキの表書きを「体裁よく」書く課題もあります。
指定される筆記具は、つけペン・万年筆・ボールペン・サインペンのいずれかです。
字の正確さや大きさの統一を意識するだけでなく、字下げや改行などのルールを遵守することも求められます。
種類の異なる筆記具を使い分け、縦書きでも横書きでも字を正確に書いたうえで、文書としての体裁を整える能力が試されるのです。
理論問題としては、漢字の「へん」や「つくり」の名称、文字や書家の歴史知識、歴史的仮名遣い、古典の読解などが問われます。
毛筆書写技能検定
毛筆書写技能検定も、6級を除き実技と理論で構成されています。
漢字を楷書および行書で書くほか、行書を簡略化した「草書」で書く能力も必要です。
また、俳句・ハガキの表書き・掲示文・賞状などを、指定された書体で書く問題もあります。
古典文学が直筆された写真を見て、その内容と字体をまねて書く「臨書」も定番の問題です。
理論問題では、書道の用語や歴史の知識、漢字の筆順、旧字体と常用漢字の違いなどが問われます。
また、ひらがなと漢字の関係、歴史的仮名遣い、へん・つくりの名称も出題範囲です。
難易度について
硬筆の場合も毛筆の場合も、3級以上では実技が600点満点、理論が400点満点の、合計1,000点です。
合格点は級によって上がっていき、3級では実技415点・理論275点以上ですが、1級だと実技535点・理論315点以上が必要とされます。
字を速く正確に書く練習だけでなく、古文を読み解いたり歴史を学んだりする対策も重要です。
公式テキストを購入して自習したり、日本書写技能検定協会による合格対策講座に参加したりすると良いでしょう。
合格率については、2019年度第1回試験の場合、硬筆も毛筆も6~4級は90%台でした。
3級以上は以下のとおりです。
- 3級:硬筆74.2%、毛筆82.8%
- 準2級:硬筆62.1%、毛筆62.7%
- 2級:硬筆62.3%、毛筆60.8%
- 準1級:硬筆20.0%、毛筆19.7%
- 1級:硬筆10.3%、毛筆9.9%
2級と準1級の合格率に大きな差があるのが見てとれます。
特に1級の合格率は10%前後と、高い難易度です。
活かせる場所は?
ビジネスシーン
書写技能検定を通して培ったスキルは、多くの場面で活かすことができます。
たとえば、ビジネスシーンです。
業務でPCを使うのが当たり前になった現代でも、書類を手書きする機会は多くあります。
取り引き先や顧客に送るハガキ・封筒の文字が美しく整っていれば、信頼感を与えることができるでしょう。
逆に、子どものような字であれば、会社や店のイメージに悪影響を及ぼしてしまう恐れもあるわけです。
日常生活
日常生活でも、さまざまな筆記具を使い分けて綺麗な字を書けることにより、自信を持つことができます。
たとえば、冠婚葬祭のシーンだと、筆で自分の名前を書くことも珍しくありません。
その際に堂々と筆を走らせることができれば、恥ずかしさに襲われることもなく、むしろ周囲からの評価につながります。
そして1級に合格するほどの技能を身につければ、教室を開いたり、書家として活躍したりといった展望も開けます。
自分の家に生徒を集めて教えたり、代筆業を営んだり、さまざまな暮らし方が可能です。
書写技能検定を受検し、コンプレックスを解消しよう
ビジネスシーンでも日常でも、字をうまく書けないと自信が持てず、恥ずかしい思いをすることがあります。
そのようなコンプレックスを解消するには、書写技能検定に申し込み、合格に向けて練習と勉強を重ねることが有効です。
簡単な級から始め、徐々に挑戦するレベルを上げていけば、自分に自信が持て、堂々と字を書けるようになるでしょう。